イランの狙いは「長期消耗戦」。メディアが隠すアメリカの裏事情。

森翔吾です。

イランの、

2万ドル(約300万円)の
ドローンを迎撃するために、

アメリカは、

400万ドル(約6億円)の
ミサイルを撃っています。

約200倍のコスト差です。

これが、

イランが仕掛ける
長期消耗戦の正体です。

でも、

本当の問題は、
そこではありません。

なぜアメリカは
安い兵器を作れないのか。

その構造は、
ほとんど報じられていません。

いや、正確に言うと、

報じられない。

そう言ったほうが
近いかもしれません。

そしてこの話は、

意外な場所から始まります。

秋葉原です。

 

目次

秋葉原のラジオ会館

僕は22歳で東京に上京しました。

その後、

元カノと秋葉原を歩いていて、
求人を見つけたんです。

そこから約6年間、
この街で働きました。

秋葉原にラジオ会館という
建物がありました。

1950年、

戦後の焼け野原に建てられた
木造ビルが始まりでした。

基板、コンデンサ、
よく分からないパーツ。

ガラクタみたいなものが
山積みで売られていました。

秋葉原ラジオ会館で売られていた電子部品やパーツ類

僕が秋葉原を去る数年前、
2011年に取り壊されています。

 

上京してから約20年。

僕は今、41歳。

ロシアのタタールスタン共和国
という場所に住んでいるのですが、

この共和国の工場で、
イランのドローンが作られています。

そのドローンの中身を開けると、

かつて秋葉原のラジオ会館で
売っていたようなものが
入っているんです。

 

シャヘド136の中身は市販品だった

ウクライナで撃墜された
イランのドローン、

「シャヘド136」を
分解した調査結果があります。

中に入っていた部品の77%が、
アメリカ製の民生品でした。

GPSは市販品。

エンジンはドイツの
小型飛行機用エンジンの模倣品。

カメラは香港のRunCam製。

ドローンレース用として
普通に売っているものです。

マイクロチップは、
Amazonでも買えるようなものでした。

さらに、

別のドローンに関して
飛行を制御するサーボモーターは、

なんと日本の町工場製の物が
使われていたこともありました。

ペンタゴン自身が、

「イランのドローンは、棚から買えるもので作られている」

と認めています。

つまり、

秋葉原のラジオ会館で
売っていたようなものを寄せ集めて、

1機あたり約2万〜5万ドルで
作っているわけです。

しかも今、

このシャヘド136は、
イラン国外でも作られています。

その中核製造拠点が、

ロシアのタタールスタン共和国
エラブガです。

僕はこのタタールスタン共和国の
首都カザンに住んでいるのですが、

このエラブガは
僕の家から車で2時間半。

そしてここには、

シベリア抑留で亡くなった
日本人の墓地があります。

僕は以前、
墓参りにも行きました。

その同じ街の経済特区で、

シャヘド136のロシア版
「ゲラン2」が作られています。

ロシアのエラブガで製造されるシャヘド136のロシア版ゲラン2

イラン → ロシア → 改良 → イラン。

カスピ海を挟んだ
技術循環ループが回っています。

日本人抑留者の慰霊碑がある街で、

中東の戦場へ飛んでいくドローンが
作られている。

本当に、

歴史は皮肉だなと思いました。

 

制裁がイランを最安兵器大国にした

では、

なぜイランは
こうした低コスト構成に至ったのか。

答えは、

お金がなかったからです。

欧米からの厳しい経済制裁で、

高性能な軍事部品は
手に入りません。

自国でチップ工場を建てようとしても、

市場が小さすぎて、
1個あたりのコストが跳ね上がる。

だから、

世界中に出回っている民生品を
密輸して組み立てるしかなかった。

アメリカ製のチップは、
大量生産されているから安い。

ドイツのエンジンはコピーできる。

カメラは香港から買える。

お金がないから、
安いもので作るしかない。

でも、

安いもので作れるということは、
いくらでも量産できるということです。

イランのドローン生産能力は、
月産約1万機とも言われています。

ロイターは、

「イランはドローンだけで
ホルムズ海峡を数カ月妨害可能」

と報じています。

もちろん、

その工場自体も
空爆で次々と破壊されています。

それでも生産が止まらないのは、
拠点が分散しているからです。

 

イランは勝とうとしていない

ここが一番重要です。

イランは最初から
勝とうとしていません。

負けなければいい。

彼らの狙い通りだったかは別として、

結果として、

強烈な消耗戦の構造が
成立しています。

もちろん、

2026年2月28日の対イラン攻撃で、
イスラエル・米国側から

想定以上の攻撃を受けたのは
間違いないと思います。

最高指導者ハメネイ師や
幹部が殺害され、

その後も制空権を奪われ、
防空の大部分を破壊され、

数千人が命を落としている。

普通なら、

国家の存続そのものが
危うくなる規模ですが、

それでも崩壊していない。

そして、

本国が激しく攻撃されている間に、
別の場所で何が起きているか。

中東全域で、

非対称な報復が進行しています。

ドバイをはじめ湾岸諸国の
米軍基地だけではありません。

空港、石油関連施設、
インフラ施設。

そうした場所まで
攻撃対象になっています。

多くの空港が、

一時閉鎖に追い込まれました。

1機数百万円の、大国から見れば
ガラクタの寄せ集めが、

数兆円規模の、

中東の都市機能や
経済インフラの息の根を
止めかねない事態です。

さらに、

世界の石油輸送の約20%が通る
ホルムズ海峡も、

いまや「危険な海域」になっています。

アメリカはすでに、

ウクライナ支援で
軍事物資を大量に消費しています。

ヨーロッパのエネルギー不安も
収まっていません。

その状態で、
もう一つの戦線が開いた。

しかも相手は、

数百万のドローンを
月産1万機で作れる国です。

イランが耐えれば耐えるほど、

西側の経済、物資、同盟関係が
少しずつ削られていく。

勝つ必要はない。

負けなければ、
相手が先に消耗します。

 

300万円と6億円

ここで、
数字を並べます。

イランのドローン
「シャヘド136」は、

1機あたり約300万〜750万円。

これを迎撃する
パトリオットPAC-3は、

1発約6億円です。

シャヘド136とパトリオットPAC-3のコスト比較図

もちろん、

すべての迎撃に
6億円かかるわけではありません。

戦闘機で撃ち落とすこともある。

もっと安い防空ミサイルを
使うこともある。

ただ、

仮に迎撃1回あたり
1億円に抑えられたとしても、

最安300万円のドローンとの比率は
それでも33倍です。

パトリオットで迎撃すれば、
最大200倍になります。

「なら、工場ごと叩けばいい」

そう思うかもしれません。

もちろん、

アメリカもイランのドローン工場を
破壊しています。

テヘランの製造工場、
イスファハンの主要組み立て拠点、
シャヘド136の保管施設。

いずれも空爆を受けました。

でも、

アメリカ自身が認めているように、

イランの製造拠点は
分散型ネットワークになっています。

全部を潰し切るのは
極めて難しいようです。

実際、

イラン国内の被害は凄まじく、
避難民は300万人を超えています。

それにしても、

月産1万機のペースで飛ばされたら、

迎撃側は毎月、
数千億円を消費する計算になります。

これが1カ月、2カ月、半年。

続いたらどうなるか。

さらに、

本当の絶望は、
「価格」だけではありません。

生産スピードの差です。

アメリカの主力迎撃ミサイル
「PAC-3 MSE」の生産能力は、

2025年時点で年間約600発。

月産に直すと約50発です。

つまり、

イランが月に1万機の
ドローンを作れるのに、

アメリカの最新鋭迎撃ミサイルは
月に50発しか作れない。

生産ペースの差は
200対1です。

安い方が大量に作れて、
高い方が先に尽きる。

これが構造の本質です。

 

ダミーに3億円を撃ち込む世界

さらにイランは、

このコスト差を広げる
補助戦術まで使っています。

中国の技術支援を受けて、
精巧なダミーを大量に作った。

木とプラスチックでできた
ミサイル模型。

でも、

レーダー反射体や熱源装置があり、

衛星やセンサーからは
本物と区別がつきません。

滑走路には、
3Dの絵も描かれています。

上空から見ると、
戦闘機に見える。

実際、

イスラエル国防軍が
「敵のヘリコプターを破壊した」
として公開した映像が、

後に地上に描かれた絵だったと
判明しています。

膨張式のダミー発射台もあります。

衛星からは本物に見える。

約3億円の精密誘導弾で、

15万円のプラスチック模型を
壊している。

防衛企業や株主にとっては、

ミサイルが消費されるたびに
次の発注が入る。

だからこれは、

彼らにとって「問題」ではなく
「ビジネス」です。

でも、

アメリカの納税者にとっては、

血税が15万円の
プラスチックに向かって
飛んでいっているわけです。

トラックの荷台から戦争する

シャヘド136は、

翼幅2.5メートル
重量約200キロ。

一般的な、

ピックアップトラックの荷台に
載るサイズです。

いちばん分かりやすいのが、
砂漠で撮影された発射シーンです。

トラックの荷台からレール発射されるシャヘド136ドローン

トラックの荷台に
傾斜したレールを載せて、

ドローンの下に小さな
ロケットブースターを付ける。

点火するとブースターが
数秒だけ噴射して、

ドローンを空中まで投げ上げる。

エンジンが回り始めたところで、
ブースターは切り離される。

これがこれまで主流だった、

ロケットブースター付き
レール発射方式です。

ところが、

2023年にイランメディアが
公開した映像で、

ブースターすら要らない
新しい方式が確認されました。

ピックアップの荷台に
発射用ガイドレールだけを載せ、

車が直線道路で
時速190キロ近くまで加速して
そのまま離陸させる。

イランのドキュメンタリー映像で、
スピードメーターが
そう映っていました。

ロケットブースターすら不要です。

衛星から見ても、

ただの自動車にしか見えません。

少し余談ですが、

さらに驚くのは、

イランが米国側衛星の
通過スケジュールまで
把握していることです。

上空を衛星が通っていない
数分間のうちに発射して、

すぐ移動する。

見つかる前に撃って消える。

見つからないなら、
撃たずに温存する。

イランが一度に大量発射せず、

あえて発射数を抑えているのは、
攻撃力が弱いからではないらしい。

無駄に発射台を露出させて
破壊されるリスクを避けている。

冷徹な計算です。

 

なぜアメリカは安く作れないのか

ここで次の疑問が出てきます。

なぜアメリカは、
安い迎撃手段を作らないのか。

2025年11月、

アメリカの陸軍長官
ダン・ドリスコルがこう言いました。

「米国の大手防衛企業は、安い民生品で十分なのに、高価な装備を買わせるよう米軍を騙してきた」

具体例があります。

ブラックホーク・ヘリコプターの
制御ノブ1個。

ロッキード・マーティン経由で買うと、
47,000ドル。

独立した業者に発注すれば、
15ドル。

同じものです。

F-35戦闘機のライフサイクルコストは、
2兆ドルを超えています。

にもかかわらず、
戦闘準備率は28%。

つまり、

7割以上が
いつでも飛べる状態にありません。

ペンタゴンは、
8年連続で会計監査に不合格でした。

なぜこうなるのか。

構造の問題です。

ロッキード・マーティン
RTX
ノースロップ・グラマン
ボーイング

アメリカの大手防衛企業は、
すべて上場企業です。

株主がいる。
四半期決算がある。
利益率を上げなければならない。

「安いもので十分です」

これでは、
株主への配当が出ません。

アメリカの軍事産業は株主に配慮する必要がある。

しかも契約構造が、
コストプラス方式です。

原価に利益を上乗せする仕組みだから、

原価が高ければ高いほど、
利益も増える。

安く作るインセンティブが、
最初からないんです。

「国防」という名目がある限り、

アメリカ国民の血税から
予算が出ます。

2026年度の国防予算は、
9,000億ドル超です。
(約140兆円)

秋葉原のガラクタで兵器を作ったら、
株主への配当が出ない。

だからアメリカには、
これができない。

でも、

イランには、できます。

 

メディアが書けない理由

しかもこの問題は、
軍事だけで終わりません。

メディアの構造も絡んでいます。

アメリカの調査報道機関FAIRが
かつて明らかにしたことがあります。

アメリカの主要メディアの取締役会には、軍需企業や石油企業の取締役が座っている。

つまり、

利益相反の疑いを抱かせる構図が
最初からあるわけです。

もちろん、

「安いドローンに高いミサイルを
撃たされている」

このコスト差そのものは、
一部のメディアも報じています。

日経も、ロイターも、
ウォール・ストリート・ジャーナルも
書いている。

でも、

「その先」を書いているメディアは
ほとんどありません。

じゃあなぜアメリカは
安い迎撃手段を作らないのか。

なぜ軍産複合体は、
それを許さないのか。

ここに踏み込むと、

自社の取締役や
大口スポンサーの利益に
響きかねないからです。

だから構造的に書けない。

こうしたアメリカの制約を
下敷きにしている日本のメディアも、

当然、踏み込みにくくなります。

以前、

ロシアで日本の某有名テレビ局の
駐在員の方と話したことがあります。

彼はこう嘆いていました。

「せっかくロシアの良い映像を撮影できても、日本の本局に送った瞬間に即却下される」

筋から逸れた話に
聞こえるかもしれません。

でも、

こんなことは日常茶飯事のようで
都合が悪いことは握りつぶされる。

それがメディアの現実です。

ちなみに、

アメリカの大手防衛企業
ジェネラル・ダイナミクスは、

年次報告書で株主に
こう伝えています。

「平和は我が社にとって悪い」

悪の組織みたいな言葉ですが、

実際には、

「世界平和による国防予算の削減は、
業績に悪影響を及ぼす」

というリスク要因を、

上場企業として
書かざるを得ない構造があるんです。

 

秋葉原の自作文化とイランのエンジニア

ここで、

冒頭の秋葉原の話に戻ります。

秋葉原のラジオ会館にいた人たちは、

限られた予算で、

最大の性能を引き出すことに
情熱を注いでいました。

ジャンクパーツを組み合わせて、
メーカー品より速いPCを組む。

壊れた基板から
使える部品を抜き取る。

イランのエンジニアたちも、
同じようなことをしています。

制裁で手に入らないなら、
民生品を密輸して組み立てる。

ドイツのエンジンを模倣する。

カメラは香港の
ドローンレーサー用です。

違いは一つだけです。

秋葉原の自作マニアは、
それでPCを組みました。

イランのエンジニアは、
それで戦争を戦っています。

そして、

アメリカの軍事産業は、
株主への配当のために、

自ら「ガラクタ」と
見下してきた兵器に
対抗する兵器を、

数億円で作り続けています。

片方は、

貧しかったから
安く作るしかなかった。

もう片方は、

安く作ると株主が困るから、
高く作るしかなかった。

このイランの「ガラクタ」が、

戦争の常識を
変えるのかもしれません。

それでは。

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