森翔吾です。
前回の記事で、
「VPNの話はまた次回」
と書きました。
今回はその続きです。

「ロシアではVPN使えばYouTubeが見れるんでしょ?」
日本にいる方から
よく聞かれます。
でも、
2026年3月の今
この認識はかなりズレています。
まず結論から言います。
日本や世界的に有名な大手VPNは
もうほとんど使えません。
NordVPN、ExpressVPN、Surfshark。
日本では有名なVPNですが、
ロシアでは今、
実用レベルでは
ほぼ全滅です。
今のロシアでは、
どのVPNを使うかと、
どこから接続するかで、
状況がかなり変わります。
僕の実感を
先に一枚でまとめると、
こうです。
| 接続環境 | 大手VPN | 特殊なVPN |
|---|---|---|
| 自宅Wi‑Fi | × | ○ |
| 外出先のモバイル回線 | × | △ |
つまり、今のロシアでは
「VPNがあるかどうか」ではなく、
「特殊なVPNを、
自宅Wi‑Fiで使えるかどうか」
くらいまで条件が
絞られてきています。
ここが日本からだとかなり
伝わりにくいところです。
僕の今の状況

今この瞬間も、
カザンの自宅Wi‑FiでVPNに繋いで
この記事を書いています。
YouTubeも見れるし、
Gmailも使える。
ChatGPTも普通に動きます。
ただし、
これは家の中の話です。
一歩外に出ると、
状況はかなり変わります。
いつもというわけでは無いのですが
モバイル回線では、
VPN自体が安定して
繋がらないことが多い。
しかも、
都市やタイミングによっては、
さらに厳しくなることがあります。
僕はカザンに住んでいますが、
先月も所要で
モスクワに行きましたし、
2週間後にもまた
行く予定があります。
モスクワでの外出中、
モバイル回線で何が起きるか。
前回の記事で詳しく書きましたが、
ホワイトリスト制限が入ると、
政府が許可したサイト以外は
一切開かない。
もちろん、
VPNも例外なく弾かれます。
なので、
「ロシアでもVPNで
普通にネットできますよ」とは、
とても言えません。
正確に言うなら、
ホテルや家では
なんとかなることがある。
でも外では別世界です。
大手VPNは全滅している

ここははっきりと
書いておきます。
・NordVPN
・ExpressVPN
・Surfshark
のような
世界的に有名サービスは、
今のロシアでは全く
使い物になりません。
接続ボタンを押しても、
延々とくるくる回るだけ。
サーバーを変えても、
国を変えてもダメです。
これは僕だけの感想ではありません。
ロシア政府の通信規制当局
ロスコムナゾールは、
2026年2月末までに
469のVPNサービスを
ブロックしたと発表しています。
つまり、
ロシア側もどんどん
対策を進化させています。
ちなみに、
日本語で
「ロシアで使えるVPN」と
検索すると、
おすすめ記事が
たくさん出てきます。
でもその多くは、
実際にロシアで検証していない
アフィリエイト記事です。
古い情報がそのまま
残っているものも
珍しくありません。
現実としては、
「有名だから安心」
ではなく、
「有名だから真っ先に潰される」
くらいに考えたほうが近いです。
なぜ大手VPNが使えないのか

難しい話をできるだけ
シンプルに書きます。
ロシア政府は、
国内のインターネット回線に
「検問所」
のような仕組みを
置いています。
これは「TSPU」と呼ばれる装置で、
すべてのプロバイダーに
設置が義務付けられており、
全国で数千台規模に
のぼるとされています。
つまり、
ロシアのインターネットは、
多くの通信がこうした
監視・制御の仕組みを
通過する構造になっています。
では、
この検問所は何をしているのか。
たとえば手紙で言えば、
中身は暗号で書いてあって読めない。
でも封筒の形、紙の質感、
切手の貼り方――
こういう「外側の特徴」を見れば、
「これはVPNの通信だな」と
分かってしまう。
大手VPNが使う通信方式
(OpenVPN、WireGuard、IKEv2)は、
世界中で何百万人も
使っている方式です。
封筒の形があまりにも有名だから、
ロシア側の検知システムは
見分けやすい。
つまり、
大手であればあるほど、
逆にブロックされやすい
という皮肉な状況です。
ここから少しだけ
技術的な話になります。
興味がなければ飛ばしてOKです。
大手VPNが使っている
通信方式(プロトコル)は
主にこの3つです。
- OpenVPN――最も歴史が長く、最も有名。だから最も検知されやすい
- WireGuard――軽くて速い。でもパケットの特徴がはっきりしていて、DPIに一瞬で捕まる
- IKEv2――企業向けVPNでも使われるが、ロシアではもう通らない
ロシアのTSPU(先ほどの検問装置)は、
この3つの通信パターンを
完全にデータベース化しています。
しかもIPアドレスの範囲ごと
ブロックされているので、
プロトコルだけでなく
接続先そのものが潰されている状態です。
じゃあ何なら通るのか。
僕が結果的に行き着いたのが、
VLESSという仕組みです。
普通のVPNは
「VPN専用の封筒」で送る。
→ 検問で即バレ。
VLESSは
「普通のウェブサイトを見ている封筒」に
偽装して送る。
→ 検問を通過しやすい。
もともと中国のグレートファイアウォール
(金盾)対策から生まれた技術で、
V2Ray → Xray というプロジェクトの流れで
開発されました。
ただし、
ロシアのDPIも進化しているので、
VLESSでも検知される可能性は
ゼロではありません。
実際、ロシア当局は
AI駆動のDPIシステムを
開発中という報道もあります。
日本で例えると――
NHKの受信料を払いたくない人が、
テレビのアンテナを隠すようなもの。
でもNHKの集金人が
サーモグラフィーを持ってきて、
壁の向こう側のテレビの熱を
感知するくらいの技術で
追いかけてくる。
そんなイメージです。
じゃあ僕はどうしているのか
僕は現在、
VPNを5つ契約しています。
バックアップのバックアップの
バックアップ、
さらにそのバックアップ。
かなり周到に準備しています。
その中に日本で有名な
大手はひとつも含まれません。
聞いたことがない名前の
サービスばかりです。
メインで使っているのは、
イスラエルの企業が提供している
VPNサービスで、
これがかなり優秀です。
先ほど触れたVLESSのような
検閲回避技術をベースにしていて、
ロシア向けに強く最適化されている。
通信方式が見つかって弾かれたら
すぐに別の方法に切り替えてくれる。
その都度アップデートされていくので、
繋がらなくなることが少ない。
大手VPNとは
レベルが全然違います。
正直、
このイスラエル製VPN1つで
ほぼ事足りています。
じゃあなぜ5つも持っているのか。
それは、
明日も使える保証がないからです。
この世界では、
今日の最強が数日後には
ゴミになることがある。
メインが万が一死んだときのために、
バックアップを何重にも持っておく。
2年契約のもの、
1年契約のもの、
いろいろ混ぜてそこそこの金額を
払っています。
ここに辿り着くまでに
1年以上かかりました。
最初は何もわからなかった。
20個くらい試して、
お金もそれなりに使って、
繋がらないサービスを
片っ端から切って、を繰り返した。
見ているのは2つだけ――
スピードと安定性。
調べまくって、使いまくって、
今の結論に至っています。
VPNだけの話じゃない――今ロシアで何が起きているか
「VPNさえあればなんとかなる」
と思っているかもしれませんが、
今のロシアでは
VPN以前の問題が起きています。
Telegramが消えかかっている

日本で言えば
LINEに近い存在――
それがロシアにおける
Telegramです。
そのTelegramが、
2026年2月から
本格的に規制され始めました。
まず、
2025年夏ごろに
音声通話への規制が入りました。
次にメディアファイルの送受信が
不安定になり、
2026年2月からは
全体的な速度制限が強まっています。
さらに、
3月14〜15日の週末には
複数地域で大規模な障害が起き、
アプリが開かない、
メッセージが送れない、
写真や動画が読み込めない。
といった状態が広がりました。
その後、
3月下旬にかけて
一部地域では接続が
部分的に戻ったものの、
依然として不安定な状態が
続いています。
ここで、
理解しておくべきことがあります。
Telegramは単なる
メッセンジャーではないんです。
実はロシア人が
VPNの情報を仕入れているのも、
主にTelegramです。
「今日○○が繋がらなくなった」
「△△がまだ生きてる」
「この設定に変えたら通った」――
こういうリアルタイムの情報が、
Telegram内の専門チャンネルで
日々飛び交っている。
日本で言えば
5ちゃんねるやRedditの
専門板に近いイメージですが、
決定的に違うのは、
使っている層の幅です。
日本だと掲示板で
VPN情報を漁るのは、
一部のITオタクというイメージ
かもしれない。
でもロシアでは普通のお母さんが、
「子どものYouTubeが見れなくなった」
からTelegramのVPNチャンネルを探す。
会社員が、
「業務で海外のサービスに繋がらない」
から同僚に教わってチャンネルに入る。
生活インフラとして掲示板的な
情報共有が機能しているんです。
だからこそ、
Telegramが止まるということの
意味が大きい。
一部のVPNサービスは、
ログインや設定の更新に
Telegramを使っていました。
つまり:
・Telegramが使えない → VPNにログインできない
・VPNがないと → Telegramが使えない
完全な悪循環です。
しかもそれだけじゃない。
Telegramが使えなくなると、
「どのVPNがまだ動いているか」
という情報自体が回らなくなる。
VPNの接続手段だけでなく、
情報の流通経路そのものが
断たれるわけです。
ロシアのネット上で
「お金払ったのにVPN使えない!」
「設定を更新するには
Telegramに入らないといけないのに、
Telegram開くにはVPNがいる。
どうしろと?」
という声が飛び交っていました。
これも、
VPNを1つしか持っていないと
詰む理由です。
WhatsAppもInstagramもとっくに規制済み
Instagramは
2022年からブロックされています。
Meta社が
「過激主義組織」と
認定されたためです。
WhatsAppは
2025年夏ごろから
段階的に規制が強まり、
まず音声通話への
制限が入りました。
そのうえで、
2026年2月には
WhatsAppについても
「ほぼ完全にブロックされた」
「全面ブロックを試みている」
という報道が出ています。
少なくとも、今は
「音声通話だけが使えない」
とだけ言える段階ではありません。
Viberは2024年12月に
ブロックされました。
日本で置き換えると、
こういう状況です。
「LINE使えません。Instagram見れません。X(Twitter)開けません。YouTube遅すぎて実質使えません。Facebook論外です。それでも暮らしています」
これが今のロシアの
インターネットです。
じゃあロシア人はどうしているのか
ここで面白いデータがあります。
これだけ規制が強まっているのに、
ロシア人のVPN利用率は
むしろ急増しています。
独立系調査機関レバダ・センターの
2025年3月の調査では、
ロシア人の36%がVPNを使っている
という結果が出ています。
前年は約25%だったので、
1年で10ポイント以上の急増です。
しかも、
40歳未満に限ると、
VPN利用率は約60%に跳ね上がる。
若い世代にとっては
「使っていないほうが珍しい」
というレベルです。
| 時期 | VPN利用率 |
|---|---|
| 2022年 | 約25% |
| 2024年 | 約25%(横ばい) |
| 2025年3月 | 36%(急増) |
36%という数字、
冷静に考えると
すごいことです。
国民の3人に1人以上が、
政府のブロックを回避する手段を
自力で見つけて使っている。
彼らがどこで情報を
得ているかというと、
先ほども触れた
Telegramの専門チャンネル、
ロシア最大のIT系コミュニティ
「Habr(ハブル)」、
そして口コミです。
若い人が親のスマホに
VPNを入れてあげる。
職場で同僚に
設定方法を教えてもらう。
先程も言ったことですが
日本だったら、
こういう技術的な情報を
ネットの掲示板やコミュニティで
追いかけるのは、
一部のITに詳しい人たちの
イメージがあると思います。
でもロシアでは、
それが「普通の生活の知恵」
になっている。
おばあちゃんが
孫とビデオ通話するために、
息子に頼んでVPNを入れてもらう。
そういう世界です。
ただし、
ここにも締め付けが来ています。
2025年9月から
VPNの広告が違法化され、
VPNの設定方法を書いた
ブログ記事やSNS投稿も
ブロック対象になり得る。
情報を共有すること自体が
リスクになりつつある。
つまり、
VPNを使う手段だけでなく、
VPNについて知る手段も
塞がれていく構造です。
KakaoTalkという予想外の選択肢

そしてもうひとつ、
まさに今週起きている現象があります。
ロシア人が大量に
ダウンロードし始めたのが、
韓国のメッセンジャーアプリ
「KakaoTalk」。
2026年3月時点で、
ロシアのApp Storeの
ソーシャルカテゴリで
2位に急浮上しました。
1位はロシア政府推奨の「Max」です。
なぜか。
VPNなしで
通話もメッセージもできるからです。
KakaoTalkは
韓国で非常に広く使われている
国民的アプリですが、
ロシアではこれまで
主流ではありませんでした。
それが今、
代替手段として
一気に注目されている。
政府が推奨している「Max」
(VK系のメッセンジャー)については、
多くのロシア人が
距離を置いている印象があります。
だからこそ、人々は
「政府が前面に出していない
別の手段」を探し始めている。
この状況自体が、
今のロシアの空気を
よく表していると思います。
法律の話――VPNを使うと罰金なのか?
ここも正確に書いておきます。
2025年に
VPNに関する法律が改正されましたが、
VPNを使うこと自体は、
現時点ではまだ違法ではありません。
ただし、
以下のことが変わりました
(2025年9月1日施行)。
1. VPNを使って犯罪を犯した場合、
情状の重い事由として扱われる
2. VPNの広告は禁止。
個人でも5〜8万ルーブルの罰金
3. VPNを使って
「過激主義コンテンツ」を検索した場合、
3,000〜5,000ルーブルの罰金
つまり、
「VPNをつないでYouTubeを見ている」
だけなら、
今のところ罰金はない。
でも
「VPN使ってましたよね?」
ということ自体が、
何か別の問題が起きたときに
不利に働く仕組みになった。
さらに、
VPNの設定方法や
技術的な情報の発信も、
場合によっては規制対象として
扱われ得ます。
ちなみに、
ロシアの国会議員
アンドレイ・スヴィンツォフは
「数ヶ月以内に、当局が認めないVPNはすべてブロックされ得る」
という趣旨の発言もしています。
完全に中国モデルに向かっていると
言っていいでしょう。
最後にまとめ
今日書いたことをまとめます。
・家のWi‑Fiでは、特殊なVPNを使えば今のところ自由にインターネットが使える
・でも外に出た瞬間、モバイル回線ではVPNすらまともに繋がらない(ことが多い)
・大手VPNは全滅。469サービスがブロック済み
・それでもロシア人の36%がVPNを使っている。若者に限れば約60%
・その情報源であるTelegramが消えかかっている。VPNについて知る手段自体が塞がれつつある
・Telegram、WhatsApp、Instagram、YouTube――日本で当たり前に使えるものが、ここでは一つずつ消えていっている
・ロシア人はKakaoTalkのような代替アプリに流れ始めている。「政府が前面に出すアプリだけは使いたくない」という空気もある
日本で例えるなら:LINEが使えない。YouTubeが遅すぎて見れない。Instagramは3年前からブロック。Xも開かない。外出中はPayPayもSuicaも使えないかもしれない。でも家に帰れば、特殊な方法でなんとかネットには繋がる。
これが2026年3月、
僕が住んでいるロシアの日常です。
ただし、
誤解のないように書いておくと、
日常の「生活」が詰むかと言えば、
そうでもありません。
前回の記事でも触れましたが、
ロシアには、
Yandex(検索・地図・タクシー・音楽)、
VK(SNS)、
OZON・Wildberries(通販)、
Rutube(動画)など、
主要な分野で国産の代替サービスが
存在しています。
タクシーは呼べるし、
買い物もできるし、
地図も使えるし、
動画も見れる。
娯楽が完全に
消えるわけでもありません。
減るのは、
圧倒的に「情報の量と多様性」です。
YouTubeやX、Instagramが
使えないということは、
海外の視点、政府と異なる視点、
多言語の情報源に
アクセスしにくくなるということです。
Rutubeに上がっているコンテンツと、
YouTubeに上がっているコンテンツでは、
世界の見え方がまるで違う。
つまりこれは、
「不便になる」という話ではなく、
「見える世界が狭くなる」
という話です。
それをどう捉えるか。
「別に国産サービスで困らないよ」
と思う人もいるだろうし、
「情報が一方向になるのは怖い」
と思う人もいる。
僕は後者です。
だからこそ、
VPNを5つ契約している。
VPNが一つしかない状態は、
お金や資産をひとつの通貨だけで
持っているのと同じかと思います。
1つの通貨、
1つの国、
1つのサービスに
依存するリスク。
VPNを5つ持つのも、
外貨預金をするのも、
複数の国に住める選択肢を持つのも、
構造は同じです。
「選択肢を複数持つ」という考え方。
これは今のロシアでの生活で、
僕が一番学んだことかもしれません。
この「リスクに対する備え」の話――
具体的にどう考えて、
どう準備しているかについて。
さらに、
VPNについて
僕が使っているものなども、
メンバー記事で詳しく書きます。
